夏になると、決まって思い出す花があります。
名前もよく知らない、小さくて、白くて、香りのやさしい花。
その花が、ある人の部屋に飾ってあって、
「夏はこれが涼しげでいいんだよ」と言っていたのを、なぜかよく覚えています。
もうその人とは会えないけれど、暑さが増してくるこの時期になると、
なぜか毎年、その白い花のことを思い出します。
花屋で似たものを見つけるたびに、手に取ろうか迷って、結局買わずに帰る。
でも、思い出すだけでも、その人と少し話した気分になれるから、不思議です。
記憶って、心のなかの季節みたいなものですね。
同じ花を見ても、同じ音を聞いても、響く場所は人によって違う。
だけど、思い出すという行為そのものが、きっと誰かとのつながりを育ててくれているのだと思います。